科学的な子育てのヒント―やさしい教育心理学―

公開日: 教育 教育心理学 子育て 本紹介


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意味付ける、関連させて覚えることの重要さ

 情報は短期記憶から長期記憶に転送される。
 しかし、単純に頭の中で繰り返すだけでは、長期記憶に情報を定着させるのに十分ではないということがわかりました。

 短期記憶の情報は10秒程度で消失します。頭の中で繰り返すと、この情報は短期記憶にとどめておくことができます。しかしそれだけでは長期記憶には転送されません。

 そこで単に言葉を頭の中に繰り返すようなリハーサルを「維持リハーサル」と呼びます。

 これに対して長期記憶に情報を転送するようなリハーサルは「精緻化リハーサル」と呼ばれます。

「うみ」なら海のイメージを思い浮かべたり、「うみ」から山を連想し、山から「さる」を連想して単語同士を関連付けたりするものです。同じ単語でも意味的な処理をすることによってよく記憶されます。

 たとえば、あかるいという単語がありますが、この単語について、形態についての質問と意味についての質問をしたとします。

 形態についての質問は、これはひらがなですか、かたかなですかというものです。
 意味的な質問は、これは「明朗」と同じ意味ですかというものです。

 あとでどんな単語があったかと聞かれると意味的な質問をされた場合の方が、よく記憶されています。単に形はどうかという表面的な浅い処理を受けた場合より、意味的な深い処理を受けた情報の方が記憶されやすいのです。

 その単語について、あなたにあてはまりますか、という質問をしたときには、もっとよく記憶されています(これを自己準拠効果といいます)。

「自己」という最も親しくまた複雑なものと関係づけることが、記憶を促進しているといえます。裏返していえば、記憶したい事柄は、なるべく自分自身と関連付けて覚えるようにすればよい、ということになります。

意味付ける

  • はげた男が新聞を読んだ(1)
  • はげた男が帽子を買った(2)
 という2つの分は、どちらが覚えやすいでしょう。

(2)の方ですね。(2)では、はげているから、帽子を買ったという意味的な関連性がありますが、(1)にはそれがありません。そこで、(1)を次のように変えてみます。

 はげた男が、帽子のセールをさがすために、新聞を読んだ(1')

 (1')は(1)よりも長くなっているのですが、意味づけが行われているため、覚えやすくなっています。

休憩することの効果

 安いネックレス問題といわれるものがあります。ひとつの輪をとくのに2セント、閉じるのに3セントかかるとして15セント以内でこの4つに別れたネックレスを全部つなぎ、ひとつなぎの輪にするにはどうしたらいいのかというものです。

 正解はまず4つの断片のひとつを取り上げ、その3つの輪を全部開きます。これで2×3=6セント。つぎにこの3つの輪を閉じるので3×3=9セント、都合15セントになります。

 この問題を連続して30分間考える場合と、中休みを入れる場合を比較すると、中休みを入れた方が正解率が高かったといいます。もちろん中休みの間は他のことをしており、この問題を考えていたわけではありません。これを孵化効果といいます。

 このようなことが起こるのは、続けて30分間考えていると、考え方がある方法に固定してしまって、別の見方が生まれにくい、逆に間に休みを入れると、いままでの固定した考えと離れた新しい視点をとることができやすいからだと考えられます。

母親の恐怖が子に伝染する?

 ワトソンとレイナー(Watson&Raynor,1920)が行った研究を紹介しましょう。彼らは恐怖感が古典的条件付けによって学習される過程について研究しました。アルバートという名の生後9カ月の乳児を対象に、次のような手続きで実験を行いました。

 実験内容

 実験に入る前に、実験者アルバートに白ネズミ、ウサギなどを提示しました。アルバートはそれらに興味を示し接触しようとさえしました。彼はこれらの対象に恐怖感をまったくもっていませんでした。

 実験が始まると、実験者はアルバートに白ネズミと大きな金属音を同時に提示しました。最初、アルバートは白ネズミに興味を示し、それに触れようとしました。そのときに、金属音を鳴らしました。このような音は人間にとって、特に乳児にとって、恐怖感を引き起こすものです。

 この手続を3回繰り返しました。1週間後にも同じ手続が繰り返されました。このような手続きの後、実験者はアルバートに白ネズミだけを見せました。

 このときには、金属音はありませんでした。それにもかかわらず、アルバートは白ネズミに対して恐怖反応を示しました。古典的条件づけによって、本来興味をもっていた対象に対して恐怖感をもつことが確認されました。

 しかも、そのような反応が白ネズミだけに現れたのではなく、ウサギやサンタクロースの白鬚の仮面などに対しても見られたのです。金属音は白ネズミと同時に提示されただけでしたが、その恐怖反応が白い毛をもつ対象全般に対して見られたことになります。

 この実験は、倫理上、問題のある研究だとは思います。実験が行われた1920年当時は、研究の倫理問題はほとんど議論されてなかったのでしょう。倫理的には問題はありますが、恐怖感が古典的条件づけによって学習されることを明らかにしたという点では意義のある研究といえます。

 上で紹介した研究は、みなさんにも興味深いものだったと思います。たとえば、ゴキブリ嫌いの人は、幼少児にゴキブリを見て大騒ぎしてるお母さんが怖くて、ゴキブリ嫌いになったのかもしれないのです。

 私たちがさまざまな対象(対人、対物、食物)に対して抱く恐怖感や好き嫌いなどの感情的な反応は、古典的条件づけによる学習によって説明できるものが少なくありません。また、レモンを見ただけで、あるいはイメージしただけでも唾液が出てくるのは、まさに古典的条件づけが人間にも生じることの証といえます。

褒めることの落とし穴

 道具的条件づけの考え方を理解するうえで参考になる具体的な研究を1つ紹介することにします。ほかの園児と遊ぶことができない引っ込み思案の園児をほかの園児と遊べるように治療した、バンデュラ(Bandura,1967)の研究がそれです。

 ふつう、幼稚園の先生はそのような子どもに対してどう接するでしょうか。おそらく、その園児のところへ行って、その子どもに直接やさしく働きかけ、ほかの友だちと遊ぶように促すでしょう。そして、その園児がいやいやながらみんなのところへ入っていくと、通常はその先生の働きかけは減少したりなくなったりします。

 教師が園児に対して直接やさしく対応することがその子どもにとって報酬的意味をもつならば、このような教師の常識的な対応は間違っているかもしれません。

 道具的条件づけの考え方によれば、教師のこのような対応は園児の引きこもり行動に報酬を与え、他の園児と遊ぶ行動には報酬を与えないことになります。というのは、園児が1人でいるときには教師を独占することになり(その行動は強化されます)、園児がみんなのところでいると教師の注意が自分から離れるからです(みんなと遊ぶ行動は強化されない)。

 教師が常識的にとった行動は、逆効果ということになります。このような行動を治療するには、むしろ教師は逆の行動をとるべきなのです。

 パンデュラのこの治療研究では、園児が他の園児といるときにその子どもとの接触の機械を増やすことによって、問題行動の治療に成功しています。

 もちろん、最終的には、教師との関係が報酬となるのではなく、他の園児との関係が報酬となることが必要なのですが、いずれにしれも人間の新たな行動の学習過程が道具的条件づけによって説明できることには変わりありません。

自己強化による学習

 親や教師からの賞罰がなくても、私たちは自分自身に賞罰を与えることによって学習することができます。パンデュラは、自己強化とは自ら設定した基準に達したとき、自らコントロールできる報酬をもって、自分の行動を決めたり維持したりする過程であると定義しています。

自己調整モデル

 竹綱(1984)の研究は、自己採点することによって遂行行動の結果を知ることにより児童が自律的に漢字学習へ動機づけられることを実証しています。

 藤井・竹綱(1989)は竹綱(1984)の手続きとほぼ同様の手続きによって、中学生の英単語学習における自律的学習について調べています。

 自己採点により遂行行動の情報を得て、それについて判断する群(判断あり群)、自己採点により遂行行動の情報を得るだけの群(判断なし群)および自己採点がなく遂行行動の情報をもたない群(統制群)を設け、3群の平均得点を比較しました。

 その結果、判断過程あり群>判断過程なし群>統制群という関係でそれぞれの群間に統計的に意味のある差が見られました。

 このことから、自己調整モデルの3要素のうち、2つの要素(遂行行動の情報をもつこと、判断過程があること)の意義が中学生の通常の強化学習に明らかにされました。

 以上のことから、親や教師からの働きかけがなくても、児童・生徒が自己調整の3要素を確認できる状況を保障することによって、彼らが自律的に学習できることが示唆されました。

やる気を決める要素

期待―価値モデル

 子どもが難しいコンピュータゲームに取り組んでいる状況を考えてみましょう。この子はどのようなときゲームをやり続け、どんなときにゲームをやめてしまうのでしょうか。

 この子どもがなんでも物事を最後までやり通したい、という強い動機(達成動機)をもっていれば、ゲームをやり続けるでしょうし、

 ゲームをクリアできそうだ(期待)と思えば思うほど、
 またゲームをクリアしたときの喜び(価値)が大きければ大きいほど、がんばると考えられます。

 逆にできそうもないほど難しいゲームであったり、このゲームができてもそれほどうれしくないと思えば、やめてしまうでしょう。

 アトキンソン(Atkinson,1964)は、成功に向けてがんばろうとする動機づけの強さは、その人のもつ達成動機の強さと成功できそうかどうかという見込み(主観的成功確率=期待)と成功することの自分にとっての価値とによって決まると考えました。式によると以下のようになります。

達成行動を行おうとする傾向=達成動機×期待×価値

 達成動機の強さは、その人の性格的なものであって一定だとすると、動機づけの強さは期待と価値で決まることになります。

 さらにアトキンソンは、期待と価値の間に、期待が高いほど価値が小さいという関係があると考えました(価値=1-期待)。ゲームの例でいえば、簡単に成功しそうな易しいゲーム(期待が高い)では成功してもあまりうれしくない(価値が小さい)、逆にできそうもない難しいゲーム(期待が低い)に成功すれば、喜びが大きい(価値が高い)というわけです。

努力という言葉を嫌う原因

  • 「A君はよい成績をとり能力がある」、といわれるとあまり努力しなかったのだろうと推測し、
  • 「A君は良い成績をとり努力した」といわれると能力があまり高くないと考える傾向があるわけです。
 これを割引原理といいます。

 割引原理のために努力を過度に強調することは、能力がないと思われているのだというメッセージとして受け取られる危険があるわけです。

 そこで努力することをあまり人には見せない、あるいは努力を放棄してしまう、といった現象が起きます。あまりできそうにない試験の前日にわざわざ友達と夜遅くまで遊びに行ったりするわけです。

 この場合試験ができなくても前日遊んでいたからだと自分に釈明できますし、万一試験がうまくいったら努力していないのにできたのですから自分には能力がある、ということになります。

 このように能力があるというイメージを維持するために自ら努力を放棄してしまうことをセルフハンデキャップと呼んでいます。

自我同一性とは

青年期とそれ以降の時期

 エリクソンは青年期の課題として自我同一性の達成を挙げました。自我同一性は ego identity の訳語ですが、単にアイデンティティ といわれることもよくあります。

 自我同一性とはこれが本当の私だ、昨日の私と明日の私、学校での私と家での私、それらはみんな少し違うかもしれないが、そうしたものをとおして変わらない私というものがある、という感覚のことです。

 青年期になって、自分とは何かを問い直し、自分なりの答えを見つけだすこと、これがこの段階の課題だというわけです。

 自我同一性は、青年期を考えるキーワードとして広く受け入れられていますが、これについては後でさらに詳しく考えてみることにします。

 若い成人期以降3つの時期はフロイトの発達段階には対応するものがありません。エリクソンは青年期以降の段階としていくつかを区別したのですが、これらは、青年期やそれ以前の時期ほど詳しく述べられていません。

 同一性が達成された次の段階では、結婚し配偶者と持続的で満足のいく関係を築き上げていくことが重要になります。

 エリクソンはこの時期に獲得されるべきものとして親密さを挙げています。さらに次の段階は、子どもを産み育てていくことが課題となります。

 また子どもに限らず、仕事において次の世代に引き継がれていくような何かを生み出す、あるいはそうした人材を育てることが重要となります。

 最後にいままでの人生を振り返り、その意味を統合することが課題となります。

不登校を改善したオペラント条件づけ療法

オペラント条件づけ療法

 スキナーの道具的条件づけは、オペラント条件づけとも呼ばれています。したがって、オペラント条件づけ療法の理論的な背景は道具的条件づけなのです。

 シェービングの考え方は、この方法では特に重要な考え方です。そこでシェーピングを用いた小林ら(1985)の研究を紹介することにします。

 小林ら(1985)は、学校に登校できない小学校1年生の児童を対象に、以下のような手続きでオペラント条件づけ療法によって行動を変容させています。対象児は、小学校入学後、1学期は問題なく登校していましたが、2学期から登校をしぶさるようになってきました。

 登校の準備の際に、泣いたり、部屋の隅に座り込むようになりました。集団登校の集合場所まで付き添うことによって、なんとか登校を続けている状態でした。登校時、いったん、登校班に入ってしまうと支障なく登校でき、学校でも何の問題もなく過ごすことができました。

 そこで、治療者は、本児が単独で集合場所まで行けることを目的としました。

 シェーピングの考え方に基づいて、自宅から集合場所までの道のりを8段階の下位目標に決めました。段階1では、A地点まで母親が同行しました。それが達成されると次の段階へと進み、最終的にH地点(自宅)から単独行が達成されることになりました。

 シェーピングで学習を成立させるためには、報酬による強化が必要です。この事例では、児童が母親と別れて集合場所へ向かう際に母親から1枚~3枚のシール(児童にとって価値がある商品)が与えられ、児童の行動は強化されました。

 児童の帰宅後、自らが用意した「がんばり表」にシールを貼りました。そのときに、母親は「大変よくできました。この次もがんばりましょう」と言葉によって、児童を強化しました。

 さらに、シールがたまると、就寝時に母親が添い寝して、本を読んであげました。シールの獲得量が多いほど、その時間も長くするようにしました。

 相談開始から約9週間後の5回目の面接では、集合場所への単独行が達成されていました。面接終了後4ヶ月のフォローアップの自転でも、登校をしぶる様子はまったく見られませんでした。
 

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やさしい教育心理学第3版 [ 鎌原雅彦 ]
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