天才が語る記憶法――天才が語るサヴァン、アスペルガー、共感覚の世界

公開日: 記憶法 本紹介

天才が語る サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界


著者:ダニエル・タメット
ダニエル・ポール・タメット(Daniel Paul Tammet、1979年1月31日 - )は、イギリスサヴァン暗算暗記および自然言語学習に関して非常に高い能力を持っている事で知られている。
彼を主人公としたテレビドキュメンタリーブレインマン」は、世界40ヵ国以上で放送され、大きな反響を呼んだ。

概要
・精緻な符号化
・関連した知識で覚える
・音楽



精緻な符号化

 記憶力を効果的に向上させるために一番大事なことは、学んでいる事柄を、その意味に注意を払うことで精緻に符号化することだ。脳に保存される情報が精緻であればあるほど、後でうまく思い出せることを証明する実験がおこなわれた。この実験で研究者は「方向付け課題」を使った。被験者に記憶させたい情報に関する特殊な質問をし、それに答えさせて符号化させるやり方だ。
 
 たとえば、「蜘蛛(スパイダー)という言葉には子音が多いですか母音のほうが多いですか?」という質問では「蜘蛛」という言葉の非意味的符号化がおこなわれ、被験者は言葉の意味を考える必要がない。ところが「蜘蛛はどんな生きものですか?」という質問では、被験者は「蜘蛛」という言葉の意味について考えるので、精緻な意味的符号化がおこなわれる。最初の質問にだけ答えた被験者たちは、その後におこなわれた回想テストで「蜘蛛」という言葉をなかなか思い出せなかった。

  興味深いことに、ある種の意味的符号化だけが、高レベルの記憶力を生み出す、と研究者たちは述べている。つまり、「精緻な符号化」をしなければ、予備知識と新しい情報を結びつけることができない。たとえば、「蜘蛛は食物ですか?」という質問をされた被験者は、この質問に答えるために蜘蛛という言葉の意味に注意を払うことはできても、この質問の仕方では蜘蛛についてすでに知っている知識とその言葉とを結び付けられない。そのため後の回想テストで、「蜘蛛」という言葉があったかどうか訊かれても、驚くほど思い出せないことになる。
 
 精緻な符号化は、ベテランの俳優が長い台詞を正確に覚えるときにおこなっていることだ。俳優たちは台詞を機械的に覚えるのではく、台本を噴石し、その言葉に含まれた意味を探ることで、演じる役がなぜそのようなことを言うのかを理解している。「肉体と精神と感情のすべてのチャンネルを使って、実際にいる相手や、想像上の人物に向かって台詞の意味を伝えるようにしなさい」と指示された学生は、台本をひとりで読んで理解した学生と比べて台詞を覚える力が飛躍的に向上することが実験で証明されている。
 
 ぼくが外国の言葉や語句をかなり楽々と覚えられるのは、この精緻な符号化をおこなっているからだ。たとえば、フランス語で蛙という意味の「グルヌイユ(grenouile)」は、語尾に「-ouile」がついていて、これはすでにぼくの知っている言葉「ラ・スィトルイユ(かぼちゃ)」や「ジュ・シャトイユ(ぼくはくすぐる)」にも含まれているし、頭の「gren-」は英語の「green(緑)」と似ていて、これは蛙の色と同じだからすぐ覚えられる。外国語の語句を覚えるやり方はまだたくさんあるが、それは次の章で詳しく述べる。
 
 フランス語といえば、友人のおばあさんの話を思い出す。そのおばあさんは、第二次世界大戦後にフランスからイギリスに渡ってきて、イギリス人一家の料理人をしていた。英語が話せなかったので、その言えのなかで話されている言葉を覚えるために独自の方法を編みだした。自分の一番良く知っているもの――つまり、さまざまな料理のフランス語の名――と関連づけて覚えたのだ。たとえば、「good night(おやすみ)」を「gousse d'ail(ニンニクのかけら)」というように!

  小学生時代の同級生の顔をすべて憶えているほど記憶力の優れた別の友人からは、人の名前の覚え方を教わった。初対面の人の名前を覚えるとき、同じ名前の小学校時代の友だちを思い出すのだそうだ。そうすると、旧友の顔と知り合ったばかりの人とのあいだにつながりができて、その人の名前を覚えられるという。


関連した知識で覚える

 歴史などで暗記すべき情報は、機械的に覚えるより関連した知識を使って覚えるほうがいい。ぼくがイギリスの国王と王妃の名前と在位した時代、アメリカの大統領の在任期間を覚えるときには、何度も暗唱したりはしないで、その人物と時代背景を学ぶことにしている。そうすれば理解が深まって覚えやすくなる。
 
 たとえば、ヘンリー八世の次に王位に就いたのはエドワード六世で、次に王位を継承したのがメアリー一世とエリザベス一世だ。男は女より(たとえ後から生まれても――エドワードの場合がそうだ)いつも先に王位を継承することを知っていれば簡単に覚えられる。さらに、ヘンリーの息子はエドワードだけだったので、姉娘たちより先に王位に就いたことや、ヘンリーと最初の妻とのあいだにできた娘がメアリーで、エリザベスは二番目の妻とのあいだにできた娘だったため、メアリーが先に王位に就いたことなどを知っていると、もっと覚えやすくなる。同じようにアメリカの大統領選が四年ごとにおこなわれ、最大でニ期務められる(合衆国憲法修正第二十二項による)ということや、フランクリン・デラノ・ルーズベルトは二期以上務めた(1932年から1944年のあいだに四回当選した)ことなどを知っていると、在任期間を覚えるときにいっそう役に立つ。

 子どものころ、ぼくは想像力を駆使して実にたくさんのことを覚えた。役割を分担して遊ぶロール・プレイングは新しい情報を符号化するうえで非常に効果的だ。なぜなら、ロール・プレイングでは、内省から導きだされる緻密な考え方が要求される体。つまり、「この場合はどうしたらいい?」「他の人ならどうするだろう?」と絶えず自問することが、新らしいことを覚えるときには役に立つからだ。ぼくが子供のころ弟たちと愉しく遊んで覚えたことに、内閣を作ることがあった。ぼくが「首相」となって協力者と相談しながら、政治、予算編成、税収、選挙の仕組を作ったが、それはすべて政治、経済、選挙組織について書かれた本で学んだことが基準となった。ぼくの場合は学んだことを遊びに生かすと、新しい知識や情報を効果的に覚えられるようになる。

 想像力を使えば難なく一連の事実を覚えられることがある。太陽系の水性、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星の名前を覚えることを例にとってみよう。宇宙飛行士になったつもりで、自分が地球を飛び立ち、他の惑星行くことを想像してみてほしい。地球の軌道から離れながら、宇宙ロケットの窓から後ろを見ると、太陽とふたつの惑星が見える。水星と金星だ。このふたつの欲しはとても小さくて、赤く輝いているのは、太陽に近いところにあるからだ。前方を見れば、地球にいちばん近い星、火星がみえてくる。火星を通りすぎると視界を覆うように現れるのは、九つの惑星の真ん中に位置するいちばん大きな星、木星だ。衝突をさけるためにロケットの軌道を修正しなければならない。木星をまわりこむように進むと、その向こうに見える土星の輪に驚きの声をあげる。そして最後にたどり着くのは、太陽系の外周をめぐるふたつの星、海王星と冥王星だ。このふたつの星は太陽からとても離れたところにあるので、凍りつくような冷たい青緑色をしている。

音楽
 音楽も、もの覚えをよくする有効な手段だ。アルファベットを習ったときに文字の順番を覚えるために歌ったあの歌を思い出してほしい。単純な曲を使うと、驚くほど簡単にものを覚えることができる。最近になって研究者たちは、なぜこういうことが起こるのかを解明するために、音楽と脳の関係を調べている。

  音楽を聴くと人の脳はきわめて複雑な働きをする。音が聞こえるのは、空気中の分子の振動が鼓膜を打つからだ。その分子の振動が一定の速度になると、脳がそれを測って音として表す。つまり振動数によって高温化低音かを決めるわけだ。人の脳は、音から意味を、そして快い感情すらをも引き出せる。

 モントリオールの「音楽知覚認知経験研究所」の所長であり神経科学者のダニエル・レヴィタンと研究班は、「帰納的効果的認知分析」という技術を使って、音楽が脳のなかでどのような働きをしているのかを調べた。すると、人が曲を聴くと、耳はその信号を聴覚皮質(音を処理する脳の部位)だけでなく、小脳にもおくっていることがわかった。

 小脳は系統発生的に見てもっとも古い脳の部位のひとつで、「爬虫類の脳」とも呼ばれ、人体の動きとタイミングをつかさどる役割を担っている。レヴィタンの研究班は、曲が始まると小脳がその拍子の動きに自分を合わせ、曲が続くうちに拍子が生じるところを予測しようとし、それが正しく合うと活気づき、予測が裏切られるとさらに活気づくことを突き止めた。小脳は、音に合わせるためにこうした一連の修正を続けることで喜びさえも見出しているらしい。

  音楽性と記憶に小脳が重要な役割を担っていることは、ぼくの人生でリズムが大きな役割を果たしていたことを考えると、とりわけ興味をそそられる。子どものこと、ぼくはたびたび癇癪を起こしたが、それをなだめられる唯一の方法が、ぼくを寝かせた毛布をハンモックのようにして、。両親が左右にリズミカルに揺する、というものだった。いまでもぼくは、椅子に座って本を読むときには体を前後にゆっくりと揺する。物心がついたときから、ぼくは音楽を聴くのがとても好きだった。音楽にまつわる最初の記憶は、1980年代初めにテレビでダイアー・ストレイツのミュージック・ビデオを見たことだ。


 音楽が記憶と繋がっていることは、さまざまな理由で理にかなっている。レヴィタンの研究が示すように、音楽を聴いていると脳は拍子の予測をし続ける。実際に脳は、これまでに学んだことを基にして絶えず予測をおこなっていて、この予測する力こそが、記憶力を伸ばす鍵であることを示す実験がある。マサチューセッツ工科大学(MIT)のジョン・ガブリエリの研究班がおこなった実験に良tれば、脳のある特殊な領域は、被験者が後にその情報を思い出す必要があるかどうかを予測しているときに活発に動いた。予測は効率よぅ学ぶうえで非常に重要なものだ。予測することでぼくたちは、十分に勉強が身についたか、それともさらに復習すべきかがわかるからだ。つまり正確な予測ができる人こそ、優れた学習者なのである。
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